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公開日: 2025.04.11  | 更新日: 2025.04.11

「教養としての認知科学」を読んで

日常生活で「なぜ自分はこんな間違いをするのだろう?」「どうして記憶があいまいになるのか?」といった疑問を抱いたことはありませんか?私はあります。自分自身のことでなくても、デザイナーとしてさまざまなユーザーと触れ合う中で、そういった場面に出くわすことも少なくないと思います。

人間の思考や記憶のメカニズムを理解することは、自分自身を知り、より効果的に学び、考えるための重要な一歩になると思います。今回は、鈴木宏昭氏の著書『教養としての認知科学』を読んだので、その内容と私の感想、そして読んで良かったと思える学びを紹介します。

この本は「人間の知性の意外な脆さ」と「環境との相互作用によってそれを補完する仕組み」を科学的に解明する、私のような素人向けの認知科学の入門書としておすすめできる一冊です。

『教養としての認知科学』の概要

『教養としての認知科学』は、人間がどのように世界を認識するのかという問いに対し、「情報」という共通言語を用いて認知科学の視点から解説する入門書です。知性の意外なまでの脆さや儚さと、それを補完する環境との相互作用に焦点を当て、記憶や思考といった身近なテーマを分かりやすく紹介しています。

この本では、単なる情報処理としての知性ではなく、身体や環境との関わりを重視する新しい認知科学の知見が紹介されています。従来の「頭の中だけで考える」という発想から脱却し、私たちの知性が実は環境や他者との相互作用の中で発揮されるという視点は、現代社会を生きる私たちにとって新鮮な気づきを与えてくれます。

こんな方におすすめ

  • 自分の思考や記憶のメカニズムについて科学的に理解したい方

  • 効果的な学習方法や思考法を身につけたい学生やビジネスパーソン

  • 認知バイアスや思考の偏りに興味がある方

  • 認知科学という学際的な学問に興味はあるが、専門書は難しいと感じている方

  • 人間の知性や思考について深く考えたい方

本書の構成とポイント

本書は全7章で構成されており、認知科学の基本から応用まで段階的に理解を深められるようになっています。

  • 第1章:認知的に人を見る

    • 認知科学とは何か、知的システムの仕組みや働き、分野を繋ぐ「情報」について概説しています。

  • 第2章:認知科学のフレームワーク

    • 「表象と計算」という認知科学の基本的な考え方や、様々な種類の表象について説明しています。

  • 第3章:記憶のベーシックス

    • 感覚記憶、短期記憶、ワーキングメモリ、長期記憶など、記憶の基本的な仕組みを解説しています。

  • 第4章:生み出す知性—表象とその生成

    • 知覚表象の儚さや記憶の書き換え、アナロジーといった、知性が表象を生成する側面について議論しています。

  • 第5章:思考のベーシックス

    • 推論、問題解決、意思決定といった思考の基本的な働きと、人間の思考に特有の傾向について解説しています。

  • 第6章:ゆらぎつつ進化する知性

    • 思考の発達におけるゆらぎやひらめきが生まれる瞬間について考察しています。

  • 第7章:知性の姿のこれから

    • 表象の生成性や身体化された認知プロセス、世界をリソースとして捉える視点など、これからの認知科学の展望について議論しています。

所感

本書を読んで最も印象に残ったのは、人間の知性が意外なほど「脆く」「儚い」ものだという指摘です。

私たちは自分の記憶や思考を過信しがちですが、実際には様々な錯覚や誤りに陥りやすいことが科学的に示されています。しかし著者はその「脆さ」をネガティブに捉えるのではなく、むしろ環境と相互作用しながら柔軟に適応していくための仕組みとして前向きに解釈しています。

特に私の学びになったのは以下の観点です。

記憶は保存ではなく再構成である

私たちの記憶は映像を録画するように正確に保存されるのではなく、思い出すたびに再構成されるプロセスだということ。これが記憶の変容や誤りの原因になるという点は、日常生活での「記憶違い」の経験と結びつき、非常に納得できました。

思考は「ゆらぎ」から生まれる

問題解決やひらめきは、固定的な思考からではなく、様々な可能性を探索する「ゆらぎ」から生まれるという視点は新鮮でした。このことから、創造的な思考を促すためには、多様な情報に触れることや、異なる視点から物事を見る習慣が重要だと理解できます。

知性は環境と分かちがたく結びついている

私たちの知性は頭の中だけにあるのではなく、メモや道具、他者との対話など、環境との相互作用の中で発揮されるという考え方は、日々の学習や仕事の方法のメタ認知を意識するきっかけになりました。

これらの学びを実践することで、自分自身の思考の癖を知り、より効果的に記憶し、創造的に問題を解決する能力を高めることができるでしょう。また、他者とのコミュニケーションにおいても、認知的な観点から理解することで、誤解を減らし、より建設的な対話が可能になると感じました。

まとめ

今回は、鈴木宏昭氏の『教養としての認知科学』をご紹介しました。

この本は、専門知識がなくても認知科学の基本的な考え方を身近な現象から理解しやすいと思いました。人間の知性の脆さと可能性を科学的に理解することで、自分自身の思考や学習のプロセスをメタ認知するきっかけになるでしょう。特に、デザイナーとしてユーザーのメンタルモデルを扱う以上、自分の認知やバイアスを認識した上で本質的なユーザー理解を求めるのに役立つ視点だと思いました。

思考や記憶のメカニズムに少しでも興味がある方、より効果的に学び、考えるための基盤を築きたい方にとって、必ず役立つ一冊です。ぜひ手に取って、あなたの知的好奇心を満たすとともに、日常生活や学習、仕事をより豊かにするためのヒントを見つけてください。


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この記事を書いた人
うえんつ
B2B領域のSaaS・アプリケーション開発などを組織で取り組むことが得意なプロダクトデザイナーで、このブログのオーナーです。
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