人に技術を伝える技術を学ぶ
公開日: 2025.01.31  | 更新日: 2025.01.31

人に技術を伝える技術を学ぶ

私は最近、Figmaのノウハウ的な記事は書いていません。これには色々な理由がありますが、意図的に書かないようにしているというよりは、自分が探究し言語化したいテーマが変わってきていることが影響しており、最近は「人はどのように認知し学ぶか?」が関心の中心にあるからです。

「人はどのように認知し学ぶか?」を深めるうえで、特に関心が高い(緊急度が高い)のが「人に教える技術」と「学びの環境をつくる技術」だと感じており、現時点で思っていることを言語化してみようと思います。

人に教える技術

技術的なスキルを人に伝え教えることは、単にその分野の知識を徹底的に知っていることだけでは不十分であると言うことを感じています。複雑な情報を分かりやすく、かつモチベートしたり興味を引く方法で伝える技術、つまり「人に技術を伝える技術」を身につける必要があると考えています。

「人に技術を伝える技術」にとって重要だと考える要素の一つは「共感」だと思います。学習者の視点、現在のスキルレベル、学習スタイルを理解し、その立場になって二人称視点で考えられるようになる必要があります。これは、プロダクトデザインにおけるユーザーの理解と本質的には同じです。

技術教授に「共感」を織り込むには、ただ大量の情報をインプットするのではなく、学習者の状況を理解し伴走することが望ましいです。例えば、プロダクトデザイナーになりたい人がいたとして、私が書いたFigmaのノウハウ記事を大量に読んで実践してもらったとて、Figmaの熟達者になることはあっても、それを用いたプロダクトデザインの熟達者(ユーザーに価値あるものを届けること)になることは難しいでしょう。

時にはインタビューをしながら、学習者の回答に積極的に耳を傾け、自分の理解とのギャップを言語化し彼らの理解に合わせて説明を調整する営みを重ねて、お互いに学び合う姿勢が結果的に技術への造詣を深めることにつながるとも思っています。これは、最近学んだ「社会構成主義学習観」の影響を受けていると思います。

もう一つの重要な側面は、複雑な概念を小さく管理しやすい粒度の塊に分解することです。これは、核となる構成要素を特定し、それらを論理的な順序で体系的に提示することを意味します。比喩や現実世界の例は、抽象的な概念と実践的な応用との間のギャップを埋めるのに非常に役立ちます。UIデザインで言うと、ロジックをデザインシステムのガイドラインとして言語化する営みが近しい行為だと思います。

もちろん、学習者にとってわかりやすいコミュニケーションは不可欠です。簡潔な言葉遣いによって専門用語の多用を避けたり、教材を提供することで、理解を大幅に向上させることが期待できます。実践的な演習やハンズオンによって「学び方」を伝えることに成功すれば、学習者は新たに得た知識を応用して自律的に学習を深めることができる用になっていきます。

学びの環境をつくる技術

ポジティブで励みになる学習環境や雰囲気をつくることが最も重要で、最も難しいと感じています。学習者が安心して質問したり、実験したり、判断されることなく間違いを犯したりできる安全な空間を作ることは、学習体験にとって重要なことは明らかです。しかし、社会的立場や会社などの雇用関係など、教育者と学習者に利害関係が生じる場面では、この状況をつくることは容易ではないように感じます。例えば、上司が部下に技術指導をする際、部下は上司の評価を気にして、質問しづらかったり、失敗を恐れて挑戦することをためらってしまう可能性があります。あるいは、立場が逆転して、部下が上司に指導するケースでも、年齢や経験の差から、上司が素直に教えを受け入れられないといった状況も考えられます。

このように、様々な要因が絡み合い、心理的な安全性を確保することは容易ではありません。だからこそ、意識的に努力をする必要があるのです。具体的には、学習者の発言を遮らず最後まで丁寧に聞き、たとえ初歩的な質問であっても真摯に答えること。失敗を責めるのではなく、そこから何を学べるかを一緒に考えること。そして、小さな成功体験を積み重ねられるよう、適切なレベルの課題を設定し、達成を共に喜ぶことなどが大切だと考えています。

忍耐と励ましは、学習者が自信をつけ、熟練に達するのを助ける上で大きな役割を果たします。効果的に教えることを学ぶことは継続的なプロセスだと思うので、今年はこの「人に技術を伝える技術」をテーマに自分の学びを深めてみたいと思っています。具体的には、教育心理学に関する書籍を読んだり、教育の実践の場を経験してみたり、経験豊富な教育者からメンタリングを受けたりするなど、多角的なアプローチで学びを深め、実践を通して自分自身の指導力を向上させていく活動をしていきます。


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この記事を書いた人
うえんつ

うえんつ

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B2B領域のSaaS・アプリケーション開発などを組織で取り組むことが得意なプロダクトデザイナーで、このブログのオーナーです。
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