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公開日: 2025.09.12  | 更新日: 2025.09.12

デザインにおける行動の可能性と手がかり

私たちが日常的に使用するモノやインターフェースは、どのようにして「使い方」を伝えているのでしょうか。この問いに答えるための重要な概念が「アフォーダンス」と「シグニファイア」です。

本記事は、これら2つの概念について個人的な備忘路として整理したものです。


アフォーダンスとは

概念の起源と定義

アフォーダンス(Affordance)は、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソン(James J. Gibson)によって1977年に提唱された概念です。ギブソンは著書『The Ecological Approach to Visual Perception』において、環境が動物に対して提供する行為の可能性として定義しました。

アフォーダンスとは、オブジェクトが持つ、その利用者に可能な行動の機会を示唆する性質を指します。重要なのは、これが観察者の能力や経験とは独立して存在する、環境の客観的な性質であるという点です。

デザインにおけるアフォーダンス

UIデザインやプロダクトデザインの文脈では、インターフェースの要素(ボタン、スライダー、テキストフィールドなど)が、ユーザーに対して操作の可能性を自然と示唆する特性として理解されます。

これは、オブジェクトの形状、サイズ、テクスチャ、配置といった物理的・視覚的特性によって伝達されます。

具体例:階段のアフォーダンス

公園や建築物にある階段を考えてみましょう。階段という形状は、その段差の連続性によって複数のアフォーダンスを提供します:

  • 上り下りする

    • 最も一般的な使用方法

  • 座る

    • 段差が座面として機能

  • 物を置く

    • 平らな面が台として機能

  • 遊ぶ

    • 子どもにとってはジャンプや駆け上がりの場

これらのアフォーダンスは、階段の物理的構造(段差の高さ、奥行き、素材)によって自然に提供されており、文化や経験を超えて認識可能です。


シグニファイアとは

概念の発展

シグニファイア(Signifier)は、認知科学者でデザイン研究者のドナルド・ノーマン(Donald Norman)によって、デザインの文脈で再定義された概念です。ノーマンは1988年の著書『The Design of Everyday Things』(邦題:『誰のためのデザイン?』)において、アフォーダンスの概念をデザイン分野に導入し、後にシグニファイアの重要性を強調しました。

シグニファイアの役割

シグニファイアは、アフォーダンスが見えにくい場合や、ユーザーがオブジェクトの操作可能性を誤解する可能性がある場合に、その操作方法を明確に伝えるための知覚可能な手がかりです。これには以下のような要素が含まれます:

  • 視覚的手がかり

    • 矢印、アイコン、色の変化

  • テキストラベル

    • 明示的な指示や説明

  • 音響的フィードバック

    • クリック音、ビープ音

  • 触覚的手がかり

    • 表面のテクスチャや温度

具体例:ベンチのシグニファイア

都市空間に設置されるベンチとその変化を考察してみましょう。

基本的なベンチ(アフォーダンスのみ)

  • 水平な面と背もたれの形状が「座る」ことを示唆

  • しかし、「横になる」「荷物を置く」「立って作業する」など複数の使用方法が可能

シグニファイアが追加されたベンチ

  • 座面の中央に肘掛けを設置(一人分の座席を明示、横臥を防止)

  • 座面に人型のピクトグラム(座る場所と向きを指定)

  • 「優先席」の表示(使用者の属性を明示)

  • 異なる色分け(エリアの区分を視覚化)

これらのシグニファイアによって、単なる「座れる構造物」から「特定の方法で使用すべき公共設備」として認識されます。

2つの公園のベンチを比較したイラスト。左は水平の木製スラットで作られたシンプルなベンチ。右は同じ形だが、アームレストで3つの座席に区切られ、それぞれに着席を示すピクトグラムと淡い色分けがされている。柔らかな自然光と落ち着いた色調で描かれている。

アフォーダンスとシグニファイアの本質的な違い

A. 存在論的な違い

両概念の最も重要な違いはその存在の性質にあると考えると、以下のような整理になります。

アフォーダンス

  • 物体に内在する客観的な性質

  • 知覚者の認識とは独立して存在

  • 文化や学習に依存しない普遍的な特性

シグニファイア

  • 人為的に付加された情報

  • 解釈を必要とする記号的要素

  • 文化的文脈や学習に依存する場合がある

B. 機能的な違い

Gibson(1979)とNorman(2013)の理論を統合すると、以下のような整理ができそうです。

  1. アフォーダンスは可能性を提供し、シグニファイアは認識を誘導する

  2. アフォーダンスは発見されるもの、シグニファイアは設計されるもの

  3. アフォーダンスは多義的、シグニファイアは明示的

具体例:円形の石のオブジェクト

公園に置かれた大きな円形の平らな石を例に、両者の違いを明確にしてみましょう。

アフォーダンス(石が持つ可能性)

  • 座る(平らで適切な高さ)

  • 立つ(安定した表面)

  • 物を置く(水平な面)

  • 遊ぶ(登る、飛び降りる)

シグニファイアの追加による変化

  • 石の上に座禅を組む人のシルエットを刻印 → 「瞑想の場」として認識

  • 周囲にロープを張る → 「立入禁止」として認識

  • 上面に同心円の模様 → 「中心に立つ場所」として認識

  • 「記念碑」のプレート設置 → 「触れてはいけない」として認識

公園にある大きな円形の石を比較する教育的な図。上段左は無地の石、上段右は瞑想する人のシルエットが刻まれた石、下段左はロープで囲まれた石、下段右は同心円模様が彫られた石。柔らかい自然色で描かれ、上からの視点で配置されている。

デザイン実践への応用

効果的なデザインの原則

Hartson(2003)は、アフォーダンスを4つのタイプに分類しました。優れたデザインは、これらのアフォーダンスを適切に組み合わせ、必要に応じてシグニファイアで補強していると考えられます。

  • 認知的アフォーダンス

    • 思考を助ける設計特性

  • 物理的アフォーダンス

    • 物理的な操作を可能にする特性

  • 感覚的アフォーダンス

    • 知覚を助ける特性

  • 機能的アフォーダンス

    • 目的達成を助ける特性

デジタルインターフェースにおける実装

現代のデジタルインターフェースでは、物理的なアフォーダンスが存在しないため、視覚的な手がかりとシグニファイアの役割が特に重要になります。

実装例:スマートフォンのアイコン

アプリケーションアイコンを例に考えてみると、以下のようにアフォーダンスとシグニファイアの組み合わせによって成立していると考えることができます。

  • 基本的な正方形の形状

    • タップ可能なアフォーダンス

  • 影や立体感

    • 押下可能性の強調(疑似的なアフォーダンス)

  • アイコン内のシンボル

    • 機能を示すシグニファイア(カメラ、電話、メールなど)

  • バッジ表示

    • 状態を示すシグニファイア(未読数など)

カメラアプリのシグニファイア

まとめ

アフォーダンスとシグニファイアは、人間とモノ・システムとのインタラクションを理解し、設計するための基礎的な概念です。アフォーダンスが行動の可能性を提供する一方で、シグニファイアはその可能性を明確に伝える役割を果たします。

効果的なデザインを実現するためには、両概念を適切に理解し、バランスよく活用することが重要です。特にデジタル製品においては、直観的な操作性と明確な指示のバランスが、優れたユーザーエクスペリエンスの鍵となります。


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この記事を書いた人
うえんつ
B2B領域のSaaS・アプリケーション開発などを組織で取り組むことが得意なプロダクトデザイナーで、このブログのオーナーです。
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