WSDレポート3:ワークショップの背景理論
この記事は、青山学院大学大学院主催のワークショップデザイナー育成プログラムの課題として、動画形式の講座を受講して筆者個人の考えをまとめたレポートです。今回は「ワークショップの背景理論」について書いています。
このレポートでは、「発達の最近接領域」と「正統的周辺参加」の理論について、私の経験を踏まえて説明します。
発達の際近接領域
「発達の最近説領域」とは、ヴィゴツキーによって提唱された理論で、ある人にとってある物事を「ひとりでできる領域」と「ひとりでできない領域」で分けた際に、その間にある「支援があればできる領域」を説明する考え方になります。
例えば、ある高さの鉄棒で逆上がりを行う際、自分ひとりでは届かない高さの2つがあったときに、台を使って手が届くようにするか、誰かに持ち上げてもらうなどの支援を得ることで逆上がりができるようになります。これはしばしば「伸び代」に対する「足場かけ」とも表現されます。
私の経験の中では、「自転車に乗れるようになること」がこの理論によって説明できると考えます。自転車を漕ぎ始めのこと、自分で自転車に跨って漕ぐことはできても、自立して走ることが難しいためすぐに転んでしまいました。そこで、母親に自転車を支えてもらったり、補助輪を自転車の両端に取り付けることで、最初は自立して漕ぐことができるようになりました。だんだん慣れてくると、補助輪を片方外してみたり、補助輪なしで少しずつ走れる距離が長くなっていき、最終的に母の支えや補助輪がなくても自転車を漕げるようになります。この過程において、「補助輪」や「母による支え」が「足場かけ」に該当すると考えます。
正統的周辺参加
「正統的周辺参加」とは、レイブとウェンガーによって提唱された理論で、ある人が新人の状態から社会的実践共同体の中で熟練して最終的に親方・師匠になっていく過程(十全化)について説明する考え方になります。
例えば、剣道の道場に入門する際に、全くの未経験の状 態から、最初は面や胴着の付け方を繰り返し学び、先輩の動きを見ながら剣を素振りする練習を重ねます。何度か試合を経験していきながら次第に勝てるようになっていき、最終的に新しく入った新人に教えられるようになっていきます。
私の経験の中では、「UIができるようになること」がこの理論によって説明できると考えます。UIデザインの初学者は、デザインツールの使い方や既にあるウェブアプリケーションやサービスの画面を見ながら、模写を行うことでデザインツールの使い方や画面内の部品について学んでいきます。それができるようになると、先輩のデザイナーにレビューしてもらいながらデザインの仕事を最初は一緒に取り組んでいくと、だんだんと任されるようになっていき、次第にひとりで高い要求のタスクもできるようになっていきます。最終的に、ひとりでUIデザインができるようになり、次に新しく入った新人デザイナーと伴走することでデザイナーを育成するサイクルが生まれます。
まとめ
これらの2つの理論は、それぞれが独立していて可分なものではなく、混ざり合いながら私たちの学びの環境に不可分なものとして存在していると考えます。ひとりでできるようになっていく過程には、伸び代への社会的実践共同体としての師匠や先輩からの支援もあれば、やり方が固定化してしまった際のフィードバックや学びほぐしの機会が与えられる場合もあります。故に、それぞれが相互に作用している状態を認知できる状態が望ましいと思いました。