
「シンプルな指示」がもたらす効果について
最近、マネージャーとしてチームとやり取りをしていて最近感じることとして、指示をシンプルにすればするほど、アウトプットの質が上がるような感覚を持っています。そして興味深いことに、これはAIとのやり取りにも同じことが言える気がしています。
この記事では、「一度に一つのシンプルな要求にする」ということが、なぜ人間に対してもAIに対しても効果的なのか、私なりの経験と気づきを備忘録として考察したいと思います。
複雑な指示が生む「優先度の迷い」
最近、自分自身が複数の依頼を同時に受けて、困ってしまった経験に基づいています。立場上、デザインレビューの準備と、来週のワークショップの企画と、ユーザーインタビューの分析などのように、それぞれ目的も背景も異なる依頼を違う人から五月雨に受けることが多いです。
正直なところ、これらを全て同時に頭の中で処理することは難しく、さてどこから手をつけようかしら、と日々小さな悩みを積み重ねています。結局、全部を少しずつ進めようとして、どれも中途半端な状態になることがよくあります。そこへ追い打ちをかけるように、「デザインレビューはxxxの理由で優先して欲しかった」などと言われてしまうのです。最初からそう言って欲しかった、などはとはとても言えず、聞いておけばよかったと内省する日々です。
最近の私の発見として、AIチャットに複数の質問を一度に投げかけたとき同じにも似たような現象が起きているような気がするのです。例えば「Figmaのプラグインについて教えて、あとデザインシステムの構築方 法も説明して」みたいに聞くと、どちらも中途半端な回答になることが多いのです。
この奇妙な類似性に気付いた時、複雑な指示は受け手に「優先度の判断」という余計な認知負荷をかけてしまうのでは、という仮説を持ちました。
シンプルな指示がもたらす「明確さ」の価値
これに気付いてからは、私は意識的に「一度に一つ」を心がけてみることにしています。
例えば:
「今週金曜日のデザインレビューに向けて、タレントマネジメント機能のxxxの準備をお願いします」
このようにシンプルにすると、メンバーは迷わず着手できますし、質問があっても「このタスクについて」という明確な文脈で会話ができます。
AIも同じで、「B2B SaaSにおけるデザイナーに要求されるスキルについて教えて」と一つに絞ると、より深く、実践的な回答が返ってくる精度が上がったように思います。
でも、情報不足もまた問題
ただし、シンプルにすることと、必要な情報を省くことは違います。
「このデザインをレビューして」だけでは、メンバーは何を基準にレビューすればいいか分かりません。同様に、AIに「デザインシステムについて教えて」とだけ聞いても、一般的な教科書的な回答しか返してくれません。
そこで私が実践しているのは、「シンプルな指示+必要十分な文脈」の組み合わせです。
例えば:
「SmartHRの新機能『xxx』の画面UIについて、初回利用者の視点でユーザビリティをレビューしてください。ユーザーリサーチで『初期設定で迷う』という声が多かったので、その改善につながる指摘を特に期待し ています」
このように、何を(シンプルな指示)、なぜ(背景)、どんな観点で(期待値)を明確にすることで、初手で共有されるアウトプットの期待値がズレることが少なくなったように思います。結果的に、コミュニケーションコストも減り、お任せできることが増えていくのです。
「段階的に深める」アプローチの効果
もう一つ、シンプルな指示の効果として実感しているのが、段階的な深掘りがしやすくなることです。
複雑な指示を一度に出すと、全体像が見えないまま作業が進んでしまいがちです。でも、シンプルな指示から始めると、最初のアウトプットを見て「じゃあ次はこの部分を」という具合に、自然と対話的なプロセスが生まれます。
AIとのやり取りでも、最初は大まかな質問から始めて、回答を見ながら「その中でも特に〇〇について詳しく」と深掘りしていく方が、結果的に欲しい情報にたどり着きやすい気がします。
シンプルさがもたらす心理的安全性
これは最近特に感じることなんですが、シンプルな指示は受け手の心理的負担も軽減するようです。
複雑な指示を受けると、「全部できるかな」「どこから手をつけよう」という不安が先に立ってしまいます。でも、一つのことに集中できると分かれば、「これならできそう」という前向きな気持ちで取り組めるのではないでしょうか。
興味深いのは、AIに対してプロンプトを書くときも、シンプルにすることで自分自身の思考が整理される感覚があることです。「あれ、自分は結局何を知りたいんだっけ?」と立ち返るきっかけにもなります。
ただし、シンプルであるこ とと抽象的であることは違う点にも触れておきます。
例えば、「売れるデザインにしてほしい」などのような抽象的な要求をそのまま与えると、解釈違いによって期待がずれてしまったり、売れるとはどういうこと?といった迷いや混乱を生じさせ、ストレスをかけてしまう結果になります。
これはAIチャットでも同じ現象が確認できます。「タレントマネジメントで売れる機能を考えて」と伝えても、おそらくスレッドを変えたりモデルを変えるとそれぞれ全く違う結果を返してくるはずです。
AIは継続利用してもらうサービスの性質があるためなのか、気を利かせて「同時に売れるとはこういうことだと定義して検討しました」とさも最もな理由をつけて文句を言わずに健気に返してくれるところが人間と違うところではありますが。
まとめ
「シンプルな指示」について書いてきましたが、これは単なるテクニックではなく、相手に何かを要求するコミュニケーションの本質的な作法の話なのかもと考えています。
人間に対しても、AIに対しても、「何をすればいいか」を明確にすることで、お互いにとって効率的で、ストレスの少ないコミュニケーションが実現できる。そんな実感を日々深めています。
もちろん、状況によっては複雑な指示が必要な場面もあるでしょう。でも、まずは「これ、もっとシンプルにできないか?」と自問することから始めてみる。それだけで、コミュニケーションの質は大きく変わるのではないでしょうか。